Tstool舎
すべては素人から始まる。
自分には何が作れるのかさえわからない。
でも、湧き上がる気持ちを抑えられなかった。
山道を歩き、木の躍動感に圧倒させられた。
流木と出会い、自然の中で研ぎ澄まされた美しさに魅了された。
この気持ちを、何かの形にしたいと思った。
自然界で育まれた芸術を、日常の実用へと繋げられたらどんなに素敵なものができるだろうと思った。
生き方も変えたかった。
社会性とひとくくりにされる人間がつくった世の中の常識が、人間の本能として非常識であることに気づき始めた気がしていた。
創作して生きていく覚悟を決め、仕事を辞めた。
公立教員の必須である異動のタイミングで退職することで、これまでの仕事に対する責任にも自分自身にもケジメをつけた。
廃屋とも言える山の空き家を借り、解体・改築という家作りから始めた。
素人に家が作れりゃ、その後は何だって作れると思った。
要領悪く、いろいろな馬鹿を見た。
それでも愉しかった。夢中だった。
もちろん、悔しい思いもした。何もない自分に…。
今までの自分がいかに肩書に守られていたかということも知った。
恐怖も覚えた。自分はどこまで落ちていくのかと…。
約一年半にわたる家作りを終え、ようやく作品をつくり始めた。
家作りとは違う、また一からのスタートとなった。
素材と向き合い、感性に問いかけ続けた。
技術も道具も、知識もなかった。それでも、いろいろなものを作った。
ベースとしたテーマは実用品。芸術と日常が融合するものを作りたかった。
そして、椅子づくりの愉しみを知った。
見て、触れて、座って感じる。全身で心地良さを感じられるものだと思った。
様々な椅子を作りながら、Tstoolが生まれた。
このTstoolを一生作り続けたい。
そんな想いから、工房名をTstool舎とした。